今回、ご自分の遺言作成を検討している方、そのお身内の方、両方にあてた内容にしました。お若い方もスマホからでもご覧いただけます。
まず、遺言を書こうと思い立ったら、あなたの相続人は誰と誰なのかをノートに書き出して明確にしましょう。日本では法定相続人という制度があり、民法であらかじめ相続人が定められていますからこの作業がとても大切になります。ところ変わればの話ですが、国によっては単なる友人が全財産相続可能とかペットのワンちゃんに全財産相続させるというのもあります。国際結婚が盛んになれば、あなたの配偶者の国の法律で思わず目からうろこといった体験をされるかもしれません。
ここでは、スタンダードに日本人が日本の国内でという前提で進めます。まず自分の相続人を確認するときはエンデングノートに記入してみることです。今回はこのエンデングノートにまつわる話です。エンデングノートは書店にあります。大きな葬儀社でも入手できます。書店で求める方は問題ないのですが、葬儀社からエンデングノートを入手するときは以下の点にご注意ください。
「エンデングノート」と「遺書」と「遺言書」は名前も、その機能も効力も違います。まずエンデングノートを作成しましょう。その時、ご注意いただきたいことは、葬儀社のセミナーで、エンデングノートの作成セミナーがたまにあります。セミナーを受講した時は、これだけはご注意ください。作成した「エンデングノート」の完成品をその主催者の葬儀社に渡すときは慎重にしてください。葬儀社としてはあなたの作成済エンデングノートを人質にとることで、あなたの葬儀の指定が受けやすくなります。うっかり商業ベースに乗せられないよう、くれぐれもご注意ください。エンデングノートがあれば遺族はそれを見れば後始末をしやすくなります。身内としては、そのエンデングノートが葬儀社に保管されているとなれば、そこに葬儀を依頼するという流れになります。これもあなたの考え方次第です。良心的で信頼のおける、かつあなたと相性のあう葬儀社であればあなたのエンデングノートの完成品を託すことでかえって安心だという場合もありえます。この段階にくると一般論は通じません。すべてあなたの判断次第です。
ここでの紹介は、まだあなたがエンデングノートを書いたことすらない段階がテーマです。どうか気づいてください。60歳以降の厚生年金裁定請求や配偶者死亡後の遺族年金の裁定請求のような簡単でだれでもできる初歩的手続きでは、「マニュアル」とか「お友達に聞く」と言った安易な発想でなんとかなります。しかし、自分の65歳以降に出くわすあらゆる問題には「マニュアル」はないという事実に気づいてください。介護保険申請にしても、成年後見制度申請にしてもマニュアルといった安易なものでは太刀打ちできません。孫のお受験マニュアルとか、子どもの就活マニュアル、このような人生の初期的段階の出来事に対するマニュアルはあります。しかし65歳以降の生き方マニュアルなどというものがあったら、「おれの人生を馬鹿にするな!」と怒るべきです。「私のこれまでの生きてきた人生を軽く扱うな!」を声を大にすべきです。生きることはパソコンゲームではありません。それぞれの専門家と個別対応で処理をすることになるのです。信頼できる専門家をどれだけ知っているかが、あなたをはじめとする高齢者の今後を豊かにもしますし、孤立無援にもします。
「エンデングノート」は何を書いても法的制約もなければ、法定要件というもの、つまり遺言書のように、この要件を満たさなければ無効となることはありません。単なる私的メモ・備忘録にすぎません。この点もしっかり認識してください。遺言書であれば、作成日を4月吉日とした場合、その遺言書そのものが無効です。理由は作成日を特定できないからです。中身の問題ではありません。要件不備として遺言書そのものが無効です。こうなると「遺言」を書いたつもりが、「恥」を書いたということになります。そしてそのことが、終わり良ければすべて良しのことわざの通り、その逆もまた真なりですのであなたがいくら生前に立派なことをしようが、著書をたくさん書こうが、いろいろな名誉職にあろうが、この遺言書無効の一点で、あなたの評価がひっくりかえります。ここのところを慎重に考えてください。特に遺言書の中身をめぐって身内の相続争いが生じたとなると、子どもにだけでなく、広く「世間様」一般に恥を書くことになります。くれぐれも軽く見ないでください。終わり良ければすべて良しであって、逆を演じないようにすることです。私の仕事は「遺言書作成で円満な相続を実現」することです。世間様への社会的「化粧屋」です。おくりびとという映画では主人公はご遺体に対する化粧をする仕事ですが、私の仕事はご遺体そのものへの化粧ではありません。円満な相続という最も難しい『対社会的な化粧屋』です。これによってあなたの名誉と生前の評価が保たれるのです。終わり良ければすべて良しです。私はここに価値観を置く方からご依頼をいただいております。また、最期の段階で心に気がかりを残すことは、ストレスの極みで終焉を迎えることになります。安らかな終焉のためには決してお勧めできません。遺言を作成し、私が遺言執行人になることでご依頼者の心の負担をできるだけ軽くして差し上げることが、大切だと思っております。死んだら無だとか、極楽だ、地獄だと言った話ではありません。このようなテレビゲームのような軽い感覚で捉えないことです。人間は死亡率100%です。問題はいつ死ぬかわからないところが不確定なだけです。いつも私は今まで自分が生きてきた歩みを大切にされる方からのお問い合わせに真面目にお応えしております。
エンデングノートの締めくくりは、ノートの値段は結構高いものですが、その点からのアドバイスです。ノートは何度も書いては消し、書いては消しを繰り返して完成させます。従って、鉛筆で書いてください。同じノートに何日も何か月、何年もかけ書き続けてコツコツと作成してください。何度も書き直せるために、紙質が良いのです。その分値段も高いのです。高いには高いなりの理由があります。書いたものは子どもにそれとなく見せながら、お互いの対話を通して完成させます。但し、財産(預金・不動産等)の記載は別紙で、紙に包んで絶対に見られないようにしてください。これをしませんとトラブルの種となります。この辺までくると、本格的な遺言書の作成が必要だと気づいてきます。遺言書の出番になります。
最後に、商業ベースのお話をもう一つします。「ご遺体」と「死体」の区別です。どこが違いますが?対象は変わりません。周りに人がいるとご遺体です。周りにだれもいないときは死体です。言われてみればなるほどと思われるかもしれませんが、このように言葉一つをとってみても、最近はあらゆるところに「商業ベース」の罠が仕掛けられておりますから、その点を再確認して本質に迫ってください。あなたの死は、厳粛な事実であり商業ベースの戯言ではないのです。結びとして、私があるご依頼者より言われたことを紹介します。今から7年前のことです。「生きるより死ぬための準備のほうが数十倍大変だ。なかなか死ねない」です。これは本当です。
私は、金融機関で10年間、フアイナンシャルプランナーとして高齢者の方の65歳以降ご葬儀までの色々なご相談とお手伝いをしてきました。あなたのこれから体験されるシステムの中に商業ベースがどのように食い込んでいるのかをよく知っております。今後、この視点からいろいろなノウハウをご紹介します。継続してご覧いただくとお役に立てると思います。
「お見事!と言われる終焉をめざしませんか?」遺言書作成はそのための人生後半の大仕事です。
遺言コンサルタント 行政書士 柴田 純一